さつまいものはなし
真夏のさつまいも畑をおおいつくす、緑の海原を見ると、さつまいもという植物の、圧倒的な勢いと生命力に感動します。そして、土の中では、実りの季節に向けて着々と育っているのです。
さつまいもは「薩摩芋」と書くように、おもに九州地方で作られていました。本当の故郷は、メキシコを中心とした中央アメリカで、日本には17世紀はじめに、沖縄を経て薩摩(鹿児島)に伝わりました。さつまいもは、日本に多い火山灰の土壌でも育ち、干ばつに耐えることができ、収量も多い作物でした。
昔に食べたさつまいもは、そんなに甘くありませんでした。それでも、大なべにならべ、ふかして食べるそのさつまいもはごちそうでした。たてに切り分け、わらでくくって軒下に干すと、干しいものできあがりです。干しいもは甘く、おやつになります。
今は用途に合わせていろいろなさつまいもが栽培されています。
さつまいもの栄養成分の多くは、大事なエネルギー源になる「でんぷん」です。さつまいもを食べるとおならがでます。それは、消化されずに大腸に送られたでんぷんが腸内細菌のえさとなり、分解されたときガスが発生した、ということです。食物繊維も豊富で、お通じを整えたり、糖尿病を防いでくれます。余分な塩分を出してくれるカリウムや加熱してもこわれにくいビタミンCも多く、体のバランスを整えたり、免疫力をアップしてくれます。
やきいものいま
いま、都内では焼き芋専門店が増加中とのことです。「ねっとり系」さつまいも品種や、やきいもを使ったスイーツ、冷やしやきいもの自動販売機、世界のやきいも、など、日本の冬の風物詩「やきいも」のいまについて紹介します。
≪日本人とさつまいも≫
中央アメリカのメキシコからグァテマラにかけた地域が原産地とされるさつまいも。紀元前3000年以上前から栽培されていたことが知られており、ヨーロッパへは15世紀末に、日本には17世紀初頭に琉球、九州へ伝わりました。8代将軍吉宗のころ、蘭学者・青木昆陽が飢餓から救う作物として進言し、江戸幕府が薩摩藩から献上させて全国に広めたことから「さつまいも」と呼ばれるようになったといわれています。
≪江戸時代のやきいも≫
やきいもが日本人に好まれるようになったのは、江戸の寛政時代(1789~1801年)のころ、それ以前にも蒸したさつまいもを売る人は存在しましたが、甘くて安いやきいもが江戸で受け、冬のおやつの定番になりました。木戸番が内職としてやきいもを売っていて、当時の浮世絵に「〇焼き」(芋の丸焼きの意味)の看板や、やきいも屋が複数描かれていることからも、やきいもの人気がうかがえます。幕末の儒学者、寺門静軒が著した「江戸繁昌記」のやきいものころには、栗より若干劣るということを洒落て「八里半」と書いた謎の看板を掲げる店があった、と書かれています。その後は、「十三里」、川越から江戸の距離が十三里だったので栗(九里)より(四里)うまいから、という看板が流行ったといいます。
≪さつまいも消費の動向≫
総務省の「家計調査(二人世帯以上)」(2020年)によると、日本の1世帯におけるさつまいもの消費量は2000年の約4,000gから2020年には約2,600gと6割ほど減少しています。これはさつまいもの価格上昇と家庭でさつまいもを調理する機会が減ったことが要因とされています。日本では年間約100万トンのさつまいもが消費されています。その用途は大きく分けて青果用、焼酎原料用、でん粉原料用、加工食品用の4つです。やきいもを含む加工食品用には約4万トンが使用されていますが、その需要はほぼ横ばいであるといいます。その中で近年脚光を浴びているのが「やきいも」です。
≪やきいもブーム≫
さつまいもに関連する情報を発信している一般社団法人さつまいもアンバサダー協会によると、最近のやきいもブームは4回目になる、とのこと。
第一次ブームは江戸時代中期。甘い食べ物が貴重だった当時、甘いやきいもが人気でした。
第二次ブームは明治時代。人口の急増に伴い、安価なやきいもの需要が高まりました。しかし、大正時代に入り、チョコレートやビスケット、キャラメルなどの洋菓子が好まれるようになると、やきいもの人気が急落しました。
第三次ブームは1950年代にリヤカーや軽トラックで売り歩いた石やきいもが登場しました。移動販売の手軽さが受け冬の町の風物詩となりました。しかし、やがてファーストフード店やコンビニエンスストアが台頭し、より安価で温かい軽食が身近になって再び衰退することとなりました。
現在、第四次ブーム。発端は1998年に発売された「業務用自動やきいもオーブン」。スーパーマーケットの店頭などでやきいもが製造・販売されるようになると、再びやきいもの人気がは高まりました。さらに、カロリーが低く繊維質やビタミンが豊富なやきいもを1食分の主食と置き換えるダイエットなども若い女性の間で話題になっています。
さらに、いまのやきいも人気を牽引しているのが「ねっとり系」といわれる品種の成長です。いままでは、「高系14号」や「ベニアズマ」などのほくほくした食感が特徴的な品種だったのですが、最近は「紅はるか」や「シルクスイート」などのねっとりとした舌触りの品種が人気となりました。その中で特に注目されたものが種子島で栽培されていた「安納芋」です。加熱後のショ糖含有量がほくほく系品種の約2倍、「蜜いも」と呼ばれることもあるほど大人気です。
≪やきいも専門店の登場≫
近年、街中では、やきいもをはじめとして、大学芋や、やきいもを使用したスイーツなどを専門的に取り扱う店舗が目に付くようになっています。やきいもを主力商品として販売している「神戸芋屋 志のもと」は全国5店舗、やきいもやさつまいものスイーツを販売する「芋ぴっぴ」は全国に21店舗、大学芋をメインに販売する「おいもやさん興伸」は都内に10店舗を展開するなど、規模は拡大傾向にあります。さつまいもをテーマに取り上げたイベントも多数開催されていて、2020年から始まった「さつまいも博」や、2022年の「やきいもフェスTOKYO2022」には3万人が来場するなど、さつまいもへの注目度は依然として高いです。また、近年は「冷やしやきいも」も話題になっています。コンビニエンスストア各社で販売され、その後、各地で自動販売機による24時間販売が広がっています。
さつまいもの一年
「冬」
秋のいもほりで残ったいもを穴の中で春まで保存
(穴の中のいもの上に藁を乗せ、その上にさらに土を乗せる)
落ち葉などを入れた苗床に前の年のいもを並べてわらを乗せる
「春」
いもから芽と根っこがでる
茎が伸びたら切り取って苗にする
「夏のはじめ」
苗をいっぽんずつ畑に植えていく
「夏」
つるが伸びて葉っぱがたくさん増える
つるをひっくり返して余計な根っこを切る(つる返し)
「秋」
いもほりをしやすいようにつるを刈り取る
いもほりをする
※つる返しとは、畑をはってのびたつるをひっくり返し、つるの途中からでた余計な根を地面からひきはがすことをいいます。株元のいもに栄養がいかなくなるのをふせぐためです。最近では、つる返しをしなくていい品種もでています。
※さつまいもは寒いのが苦手です。冷蔵庫に入れるのはやめましょう。新聞紙につつんで常温で保存します。
いろいろなさつまいも
べにあずま … スーパーでよくみるほくほく甘いさつまいも。
なるときんとき … 徳島でつくられてきたほくほく甘い人気もの。
あんのういも … ねっとり甘い種子島育ち。
たねがしまむらさき … お酒の原料にもなる甘いむらさきいも。
マロンゴールド … 中は焼くと黄金色、しっとり甘い。
パープルスイートロード … 濃い紫色を活かして料理やお菓子にもつかわれる。